入力するたびに数秒待たされる。次の画面に移るのに10秒かかる。
診察室で、患者さんが待っている。医師がカルテを入力できない。その状況で情シスに「カルテが重い、すぐ確認してほしい」という連絡が入る——医療機関での情シス担当として、この緊張感を何度経験したかわからない。
電子カルテのレスポンス低下は、一般的なPCの「動作が重い」問題とは性格が違う。診療という業務が直接止まるため、対処の優先度と判断の速さが求められる。原因は「端末・ネットワーク・サーバー」の3層のどこかにあり、切り分けができれば解決の道筋は見える。
この記事でわかること
- 電子カルテが重くなる原因の3層切り分け手順
- 診療時間中にできること・できないことの判断基準
- ベンダーへの連絡前に整理すべき情報と伝え方
まず「重さ」の性質を確認する
📌 要点:「全端末が重い」か「特定の端末だけ重い」かで、原因の層がほぼ決まる。最初の30秒で確認すること。
電子カルテのレスポンス低下には大きく2種類ある。
| 症状 | 疑われる層 | 確認の優先順位 |
|---|---|---|
| フロア・病棟全体で重い | ネットワークまたはサーバー | 最優先で確認 |
| 特定の端末だけ重い | クライアント端末 | その端末を特定して対処 |
| 特定の操作(画像表示・検索等)だけ重い | サーバーの特定機能 | ベンダーへの連絡が必要 |
| 朝イチや特定の時間帯だけ重い | バッチ処理・同時アクセス集中 | 時間帯ログの確認 |
最初に確認すべきことは単純だ。「自分の端末だけか、隣のスタッフも同じか」——これを30秒で確認してほしい。複数人が同じ症状なら、ネットワークかサーバーの問題として対処を切り替える。
原因を3層で切り分ける
📌 要点:端末→ネットワーク→サーバーの順に確認する。端末から始めるのは「自分でできる対処」が最も多いからだ。
第1層:クライアント端末の問題
特定の端末だけ重い場合はここを疑う。
医療機関のカルテ端末は、長時間起動したままにすることが多い。メモリリーク(アプリが使ったメモリを解放しない現象)が蓄積して、時間が経つほど重くなるケースがある。
端末で確認すること:
- タスクマネージャーでCPU・メモリ・ディスクの使用率を確認する
- 電子カルテアプリのプロセスがメモリを異常消費していないか確認する
- 可能であれば電子カルテアプリを一度終了して再起動する
診療時間中の注意: 端末を再起動する場合は、現在入力中のデータが保存されているかを必ず確認する。保存前に再起動すると入力内容が消える。担当医に「今の入力を保存してから端末を再起動します」と一言伝えてから実施すること。
第2層:ネットワークの問題
フロア全体で同じ症状が出た場合はここを疑う。
電子カルテはサーバーとリアルタイムで通信しているため、ネットワークの遅延が直接レスポンスの悪化につながる。
確認手順:
- 別のネットワーク機器(ブラウザでイントラネットサイト等)の応答速度を確認する
ping サーバーIPアドレスで応答時間を確認する(10ms以下が正常、100ms超は要確認)- ネットワークスイッチ(ハブ)のランプを目視確認する(異常点滅・消灯は障害のサイン)
カルテに関係するネットワーク系統が別になっている病院では、カルテ専用のVLANやサブネットが詰まっていることがある。この場合はネットワーク機器の設定変更が必要で、情シスまたはネットワークベンダーへの連絡が必要だ。
第3層:データベースサーバーの問題
全端末で重く、ネットワークに問題がない場合はここを疑う。
電子カルテのデータはDBサーバーに格納されており、サーバーのCPU・メモリ・ディスクI/Oが高負荷になると全端末のレスポンスが低下する。
医療機関でよくある原因:
- 月初・月末のレセプト集計処理:バッチ処理が走ることで通常の診療入力と競合する
- 大量の画像データ検索:PACS連携の画像検索・過去データの一括参照
- 夜間バッチの実行遅延:本来夜間に終わるはずのバッチ処理が診療時間にずれ込んでいる
サーバー側の問題はサーバーコンソールへのアクセス権限が必要で、電子カルテベンダーの管理下にあることがほとんどだ。自分で対処しようとせず、ベンダーへの連絡が必要だ。
診療時間中にできること・できないこと
📌 要点:診療が動いている間は「止めない」が最優先。できる対処の範囲を事前に把握しておくことが情シスの責務だ。
医療機関の情シスとして最も難しいのが「診療を止めずに問題を解決する」という制約だ。一般企業であれば「一度システムを再起動します」と言えるが、電子カルテを止めると診療記録・処方・検査オーダーが入力できなくなり、患者安全に直結する。
診療時間中にできること:
- 端末単体の電子カルテアプリ再起動(入力データの保存を確認してから)
- 重い処理を行っているバッチの一時停止依頼(ベンダーへの連絡)
- 代替端末への誘導(別の端末を使ってもらう)
- 紙運用への一時的な切り替えの提案(重大な障害時)
診療時間中にできないこと・してはいけないこと:
- DBサーバーの再起動(全端末が一斉に切断される)
- ネットワーク機器のリセット(進行中の通信が全て切れる)
- 電子カルテアプリのアップデート適用
- ファイルサーバーのメンテナンス
ベンダーへの連絡は「診療時間中であること」「何人の医師・スタッフが影響を受けているか」「現在の症状の具体的な内容」を最初に伝えることで、対応の優先度を上げてもらいやすくなる。
ベンダーへの連絡前に整理する情報
📌 要点:電子カルテは医療機器の管理に準じた扱いをするベンダーが多い。伝え方一つで対応速度が変わる。
① いつから症状が出ているか(時刻まで)
② どの端末・どの部署・何人が影響を受けているか
③ 直前に何か変化があったか(アップデート・設定変更・新しい機器の接続)
④ 具体的な症状(入力から反応まで何秒かかるか)
⑤ 現在の診療への影響(処方オーダーができない等の具体的な支障)
⑥ 試みた対処とその結果
特に⑤の「診療への影響」を明示することが重要だ。「システムが重い」より「処方入力に15秒かかっており、午前の外来患者30人の診療に影響が出ている」のほうが、ベンダーの緊急対応を引き出しやすい。
よくある質問
- Q電子カルテが重いとき、まず誰に連絡すればいいか?
- A
まず同じフロアの別スタッフに「そちらも動作が遅いですか?」と確認する。
全体的な問題なら病院の情シス担当(またはシステム管理者)へ連絡する。情シスが不在または対応できない場合は、電子カルテベンダーのサポート窓口へ直接連絡してよい。緊急度を最初に伝えることが重要だ。
- Q毎月決まったタイミングでカルテが重くなる。なぜ?
- A
月初はレセプト(診療報酬請求)の集計・チェック処理がサーバーで実行されることが多い。
この処理が通常の診療入力と重なると負荷が増大する。慢性的に起きるなら、ベンダーにバッチ処理のスケジュール見直しを依頼するのが根本解決になる。
- Qなぜ特定の患者のカルテを開くと必ず重くなる?
- A
その患者のデータ量が膨大になっている可能性がある。
長期入院・複数の検査・大量の画像データが蓄積した患者は、カルテを開いた際の読み込みデータ量が多い。この場合はベンダーへの最適化依頼が必要だ。
- Q夜間のメンテナンス後から翌日ずっと重い。どう対処する?
- A
メンテナンスで適用された更新プログラムやパラメータ変更が原因の可能性が高い。
ベンダーに「昨夜のメンテナンス後から重くなった」と時刻を明示して連絡し、変更内容と切り戻しの可否を確認してもらおう。
- Q現場で情シスがいない時間帯に重くなった場合にできる対処は?
- A
まず使用している端末を再起動する(保存を確認してから)。
改善しなければ重症度を判断して、軽度なら次の情シス対応を待つ、診療に著しく支障が出るなら電子カルの使用をいったん止め紙カルテでの対応、という2択で判断してほしい。
まとめ
- まず「全体か特定端末か」を30秒で確認する:これで原因の層がほぼ決まる
- 3層切り分け:端末(再起動可)→ネットワーク(ping確認)→サーバー(ベンダー連絡)
- 診療時間中はサーバー・ネットワーク機器を止めない:代替端末誘導・紙運用への切り替えが現実的な応急処置
- ベンダーへの連絡は「診療への影響」を数値で伝える:対応優先度が上がる
- 月初の重さはレセプト処理との競合が多い:慢性的ならバッチスケジュールの見直しを依頼する
電子カルテのトラブルは「患者の診療が止まる」というプレッシャーの中で対処する必要がある。焦りを感じるのは当然だ。でも原因を3層で切り分ける習慣を持っていれば、落ち着いて判断できる。この手順を頭に入れておいてほしい。
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