「プログラミングなんて、AIに任せれば楽勝でしょ?」
「面倒な基礎学習なんて飛ばして、サクッとアプリを作って稼ぎたい」
もしあなたがそんな風に考えているとしたら、この物語はあなたにとって最高の福音であり、同時に最も冷徹な処方箋になるかもしれません。
今回ご紹介するのは、ChatGPTを駆使して100日間連続でアプリを開発・リリースし続けた女子大生、大塚海さんの実話『#100日チャレンジ』の軌跡です。当初は「いかに楽をして課題をこなすか」という、至極真っ当なズボラ心から始まったこの挑戦。しかし、100日後の彼女を待っていたのは、AIに依存する姿ではなく、自ら微分方程式を解き、設計図を引く「自走するプログラマー」としての覚醒でした。
AIを「魔法の杖」から「最強の補助輪」へと変え、学習の順序を根底から覆した新しい時代の教育論を、彼女の100日間の悲鳴とカタルシスと共に紐解いていきましょう。
「楽をしたい」から始まった、AIとの100日間
物語の主人公は、Z世代の典型的な「効率至上主義(という名のズボラ)」な女子大生でした。彼女がプログラミングの世界に足を踏み入れたきっかけは、驚くほど不純です。大学のレポート課題をいかに手を抜いて終わらせるか。その相談相手として選んだのがChatGPTでした。
内職でこっそりAIにコードを書かせ、オセロのプログラムを完成させた彼女。しかし、運悪く(あるいは運良く)その現場を教授に見つかってしまいます。「怒られる……!」と身を縮めた彼女に、教授が放った言葉は意外なものでした。
「ChatGPTで作ったのすごくない、どうやったの?」
教授は、AIというツールを使いこなして形にした彼女の「創意工夫」を絶賛したのです。この肯定的な出会いが、彼女の心に火をつけました。こうして、1日1個、100日連続でアプリをリリースするという、常軌を逸したチャレンジが幕を開けたのです。
「エンジニアって、誰でも楽に高収入みたいなやつじゃないの?」
当初、彼女はそう高を括っていました。最初は「おみくじアプリ」や「単語帳」といった、AIに一行命令すれば完成するような簡単なものでしたが、毎日新しいものをリリースし続けなければならないという制約が、彼女を次第に「設計の複雑化」という深淵へと追い込んでいったのです。
「AIは使い手の能力を超えない」。1万行生成して96%を捨てた挫折の先に見えた真理
開発時間は当初予定していた1日6時間から、気づけば12時間を超える過酷な日々へ。特に象徴的だったのが、15日目に挑んだ「大砲を撃つゲーム」の開発です。
ChatGPTに「いい感じに弾道を描いて」と頼んでも、AIが吐き出すのは重力や空気抵抗を完全に無視した、どこか不自然な動き。何度も修正を指示しても、AIは目の前の1行を直すだけで、物理法則の「正解」には辿り着けません。結局、彼女は大学の講義で「一生使わない」と断言していた微分方程式の教科書を引っ張り出し、自力で数式を解き、それをコードに落とし込む必要に迫られました。
「サボるためにAIを使っているのに、なぜ私は数学を解いているんだ……」
さらに、アプリの規模が大きくなるにつれ、別の絶望が彼女を襲います。コードが400行を超えたあたりから、AIが吐き出したパーツを繋ぎ合わせるだけでは、アプリが全く動かなくなったのです。当時の彼女は、1万行ものコードをAIに生成させ、その中から「動く可能性のある4%」を必死に抜き出し、つなぎ合わせるという、地獄のような非効率な作業を繰り返していました。正直、コピペしているだけの時間は、自分が賢くなっている実感など微塵もなかったはずです。
AIが吐き出したコードが動かないとき、さらにAIに修正させると、別の場所が壊れる……という底なし沼。彼女の12時間は、この「AIとのいたちごっこ」に耐え抜く精神修行でもありました。そこで彼女は本質的な真理を掴み取ります。「ChatGPTは使い手の能力以上のことはできない」という事実です。
これは語学学習に例えると分かりやすいかもしれません。「チャットGPTで英語力を伸ばすためには、そもそも英語力が必要なんだ」というパラドックスと同じです。AIは目の前の「ミクロな計算」は天才的ですが、建物全体の「マクロな構造」を設計する力はありません。監督(人間)が設計図を持っていない現場では、どんなに優秀な大工(AI)がいても、家は建たないのです。
プログラミング学習の「補助輪」としてのAI:逆引き学習の革命
従来のプログラミング学習は、非常に過酷なものでした。「変数とは何か」「型とは何か」といった、お世辞にも面白いとは言えない基礎を何章も積み上げ、何十時間も耐えた先に、ようやく自分の作りたいものに触れられる……。多くの学習者が、この「基礎の砂漠」で力尽きてきました。
しかし、AIはこの学習の順序を180度転換させました。いきなり「作りたいもの(応用)」から始め、AIにコードを出力させる。当然、最初は意味がわかりません。しかし、「この行はどういう意味?」「色を変えるにはどこを直せばいい?」と、自分の興味を起点にAIに質問し、ピンポイントで知識を吸収していく。
これは、初心者が独学で必ずハマる「些細なバグ(セミコロンの打ち忘れなど)」という名の落とし穴を、AIという伴走者が即座に埋めてくれるからこそ可能な、新しい時代の学習法です。まずは「Hello World」を覚えるのではなく、自分が欲しいアプリの画面をAIに出力させ、そこから遡って基礎を学ぶ。この「逆引き式」の学習によって、挫折の確率を劇的に下げることができるのです。
AIは、初心者が独学で挫折する原因となる「些細なバグ」を即座に埋めてくれる優れた伴走者です。しかし、大工さんに指示を出す監督の役割だけは、人間が譲ってはいけない領域なのです。
主体性の奪還。自走するプログラマーへの覚醒
100日間の挑戦の終わり。彼女の姿は、当初の「ズボラな大学生」とは似ても似つかないものになっていました。「チャットGPTへの依存度が減り、設計からコーディングまでを私がすべて主導するようになった」と彼女は語ります。
あれほどAIに縒りかかっていた彼女が、最後にはAIを「優秀な検索エンジンの代替」程度にしか使わなくなっていたのです。AIという補助輪を使い倒して100日間走り抜けた結果、彼女の「プログラミング筋力」は、いつの間にか補助輪なしで爆走できるレベルにまで鍛え上げられていました。
「作品づくりの主体は私なのだ。ChatGPTが主体になることは生涯ないのだ」
この言葉は、AI時代において人間がどうあるべきかを示す、力強い宣言です。AIに「丸投げ」するのではなく、自らが構造を設計し、指示を出し、修正する。その責任を負う覚悟を持ったとき、AIは初めて「主体性を奪う怪物」から「能力を拡張する相棒」へと姿を変えます。
エンジニアって、涼しい顔でキーボードを叩いて高収入を得る職業だと思っていました。でも彼女の100日間は、泥臭いデバッグと、一生使わないと思っていた数学との格闘。結局、AIという最新鋭の剣を振り回すには、それを支える自分の「筋力(基礎知識)」を鍛えるしかなかった。この皮肉でいて熱い物語こそ、私たちがAI時代を生き抜くヒントに他なりません。
まとめ
この記事をまとめると…
- 新しい学習パラダイム: 面白くない「積み上げ式」から、作りたいものから始める「逆引き式」への進化。AIは「基礎の砂漠」を飛び越えるための最強の移動手段。
- AIの限界の理解: AIは「ミクロ」には強いが「マクロ」の構造設計は苦手。高度な開発には、依然として人間の「構造を理解する力」が不可欠。
- 数学・基礎の再発見: 楽をするためにAIを使っても、物理法則などの現実的な成果を出すには、結局人間側の数学的知識がボトルネックになる。
- 「自走」への成長: AIを使い倒すプロセスは、皮肉にもAIへの依存を減らし、人間が主体的に設計・開発する力を養う最高の訓練になる。
配信元
番組名:ゆるコンピュータ科学ラジオ
タイトル:100日連続でアプリを作り続けたら、人はどうなるのか?#171
配信日:2025-04-13


