犯人より、悪い奴。ランサムウェアを「5億円のドル箱」に変えた正義の味方の正体

AI・テクノロジー

「ランサムウェアに襲われた!でも、犯人に身代金を払うわけにはいかない……」

絶望の淵に立たされた企業の前に現れる、救世主のような存在。それが「復旧支援業者」です。彼らは「高度な独自技術でデータを復元する」と謳い、企業の窮地を救うヒーローとして振る舞います。しかし、その正体は、被害企業のメンツを保ちつつ、裏で犯人に金を流す「逆マネーロンダリング」のプロかもしれません。

身代金の平均額が5億円にまで跳ね上がった今、サイバー攻撃が根絶されない真の理由は犯人の技術力ではありません。被害企業、保険会社、そして「正義の味方」を装う支援業者の全員が、それぞれの経済合理性に基づいて「犯罪資金が循環するシステム」を暗黙のうちに支えてしまっているのです。

今回は、資本主義が生んだ「美しすぎる共犯関係」の闇を暴きます。これは単なるITの事件簿ではありません。あなたの会社の役員会が、知らぬ間に犯罪組織の最大スポンサーになってしまうかもしれない、現代ビジネスの「バグ」の物語です。

1. 爆上がりする「客単価」とB2B化するサイバー犯罪の変質

かつてランサムウェアといえば、個人のPCをロックして数万円を要求する、いわば「デジタルなカツアゲ」のようなものでした。しかし、今の彼らは洗練された「B2Bビジネス」の体現者です。

「個人の悩みを聞いて1時間5000円貰うより、企業のYouTubeコンサルをして1時間10万円貰ったほうが儲かるって書きましたね」

この言葉が示す通り、犯人グループはターゲットを支払能力の高い「企業」へと完全にシフトさせました。その結果、2024年の身代金平均支払額は273万ドル、日本円にして約5億円という驚異的な「客単価アップ」を果たしています。2024年に支払われた身代金総額は、確認されているだけでも少なくとも8億ドル。もはや一大産業です。

なぜこれほどの高額が成立するのか。その背景には「サイバー保険」の普及があります。自腹で5億円払うのは痛い。しかし、保険でカバーされるなら、一刻も早く業務を再開したい企業にとっては「合理的な選択」になってしまう。この保険という安心感が、皮肉にも犯人側の強気な価格設定を支えるインフラとなっているのです。

2. 正義の味方は「中抜きのプロ」か?支援業者が隠蔽する、禁断の逆マネーロンダリング

企業にとって最大のハードルは、金銭的損失よりも「犯人に金を払った」という事実が公になることによる社会的批判です。反社会的勢力への資金供与は、コンプライアンス的に致命傷となりかねません。そこで「復旧支援業者」という絶妙な補助線が登場します。

彼らは表向き、「自社の高度なシステムで復元しました」と報告します。この「技術で解決した」というストーリーこそが、企業が喉から手が出るほど欲しがっている商品です。

「復旧支援業者は、身代金5億を請求されている会社に、手数料込みで15億請求するわけですよ。で、この15億のうち5億を普通に身代金として裏で払っちゃう。そして10億を抜いて『復元できましたよー!』って言うわけです」

これが「逆マネーロンダリング」の実態です。企業は「復旧費用」という名目で支援業者に金を払い、支援業者はその一部を「裏口」から犯人に流す。これによって、企業は社会的メンツを保ち、支援業者は巨額の中抜き利益を得て、犯人は確実に金を手に入れる。

もちろん、純粋に高い技術で復旧を行う正当な業者も存在します。しかし、外部の監査からすれば、そのプロセスが「純粋な技術」なのか「裏での交渉と支払い」なのかを判別することは不可能です。この不透明性こそが、支援業者を「無敵の共犯者」に仕立て上げています。

3. パチンコの三店方式と同じ?全員が「丸く収まる」資本主義のバグ

このビジネスモデルの真の恐ろしさは、関わるすべてのステークホルダーの利害が、歪んだ形で完璧に一致してしまっている点にあります。これはまさに、日本のパチンコ産業を支える「三店方式」の構造そのものです。

  • 被害企業:一刻も早く業務を再開したい。「支援業者に技術料を払った」という名目があれば、社会的非難を回避できる。
  • 保険会社:業務停止が長引いて莫大な損害賠償や営業損失を補填するより、支援業者への支払いをサッと済ませる方が「安上がり」で済む。
  • 復旧支援業者:中抜きによって、通常のセキュリティコンサルでは考えられないほどの巨額利益(数億円単位)を得る。
  • 攻撃者(犯人):支援業者が介在することで、交渉がスムーズに進み、安全かつ確実に「売上」を回収できる。

「復旧支援業者という補助線があることで、全員が丸く収まってしまう」

この「四方よし」の構図が完成している限り、ランサムウェアという犯罪がこの世から消えることはありません。むしろ、社会全体がこの犯罪を「必要悪」としてシステムの中に組み込んでしまっている。これこそが、資本主義が産み落とした最大級のバグなのです。

4. 犯人と「常連」になるプロのネゴシエーターたちの素顔

さらに事態をシュールにしているのが、支援業者と犯人グループの間に芽生える「奇妙な信頼関係」です。有能な支援業者は、もはやプロのネゴシエーター(交渉人)であり、世界中の凶悪なサイバー犯罪組織と「顔なじみ」になっています。

「『いつもお世話になっております!今回も私が担当させていただきます!』みたいな感じで交渉に入るらしいんだよ」

正直、ゾッとしませんか? あなたの会社を奈落の底に突き落とした犯人と、救世主であるはずの業者が、チャット画面の裏側で「お疲れ様です、例の件ですが……」とビジネスライクな挨拶を交わしているのです。

対等なビジネスパートナーとして扱われることを好む犯人側も、支援業者の顔を立てて数億円単位の大幅な「値引き」に応じることがあります。犯人から「次もあいつを交渉担当に指名してくれ」と信頼される支援業者すら存在する。これはもはや、倫理の崩壊したアウトソーシングの風景です。私たちが良かれと思って支払う対策費用や保険料が、巡り巡って次のサイバー攻撃の「研究開発資金」になっている。この絶望的なループが、今のIT業界の裏側で回っているのです。

まとめ

この記事をまとめると…

  • B2B産業への進化:ランサムウェアは企業を狙うことで平均5億円を稼ぎ出す、洗練された高収益ビジネスへと変貌した。
  • 逆マネーロンダリングの舞台裏:復旧支援業者は、企業が社会的批判を避けながら身代金を支払うための「隠れ蓑」として機能しているケースがある。
  • 三店方式の絶望的な安定感:被害者、保険、業者、犯人の全員が経済的に「得をしてしまう」構造が、犯罪の根絶を不可能にしている。
  • 歪んだプロフェッショナリズム:業者と犯人の間には「常連」としての信頼関係があり、値引き交渉すらも効率化された業務フローの一部となっている。

「犯人に屈したくない、でもデータは返してほしい」。その矛盾を、数億円の手数料で「なかったこと」にしてくれる魔法の存在。しかし、その魔法の代償として、私たちは犯罪組織を肥え太らせ、次の被害者を生み出し続けています。

正義や倫理といった言葉が、経済的合理性の前でいかに無力か。この記事を読み終えたあなたが、もし自社のセキュリティ担当者や経営陣であれば、次に「復旧の専門家」を呼ぶ際、その業者の背後にどんな「顔なじみ」がいるのかを、一度想像してみてください。

配信元

番組名:ゆるコンピュータ科学ラジオ
タイトル:サイバー攻撃には、犯人より悪い奴がいる。#181
配信日:2025-06-22

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