義務教育は「魔法」を教えていた。理科室の豆電球が1秒に数十億回の計算に変わるまで。あなたのスマホに潜む“数百億の門番”の正体

AI・テクノロジー

小学校の理科室。あの独特の油の匂いと、木の机。
私たちはそこで、「直列つなぎ」と「並列つなぎ」という、一見すると地味で退屈な実験を行いました。電池を繋ぎ、豆電球が光るかどうかを確認する。あの時、誰も教えてくれませんでした。実はあの「電気が通る・通らない」という極めてシンプルな現象こそが、人類が手に入れた最強の知能、コンピュータの心臓部を動かす「魔法」の正体だったのです。

「0」と「1」だけの世界で、なぜ写真が撮れ、音楽が流れ、AIが言葉を紡ぐことができるのか。「ゴミ箱がステーキを焼くみたいな話で、半導体が計算するって意味不明じゃん」という疑問は、極めて真っ当な感覚です。しかし、その謎を解き明かすカタルシスは、すべてあの理科室の実験に集約されています。

本記事では、曖昧な電気の世界に「非情な境界線」を引くデジタルの本質から、直列・並列が「掛け算・足し算」へと化ける瞬間の驚き、そして指先サイズのチップに地球の全人類を遥かに凌ぐ「数百億の門番」を詰め込む驚異の技術までを、圧倒的なボリュームで徹底解説します。

今回の配信内容🎧

  • コンピュータの最小単位「トランジスタ」は、条件付きで道を開く「門番」である。
  • 連続的なアナログ電気信号を「0」と「1」に割り切る「しきい値」の魔力。
  • 直列つなぎは「掛け算(AND)」、並列つなぎは「足し算(OR)」そのものであるという衝撃。
  • 演算結果を次の回路へ繋ぐ「モジュール化」が、複雑な四則演算を可能にする。
  • なぜスマホは熱くなるのか? 数百億の門番たちが全力疾走する現代テクノロジーの裏側。

世界を「0」と「1」に割り切るデジタルの「非情な境界線」

コンピュータの中を流れているのは、紛れもない「電気」です。本来、自然界における電気の量(電圧や電流)は、波のように滑らかに、連続的に変化する「アナログ」な存在です。しかし、コンピュータはこの曖昧な電気の世界に、一本の断固たる線を引きます。

「この世にある電気の量ってさアナログじゃん。連続的だとうん。……これを割り切って高いか低いかの二択に分けちゃいましょうっていうのが電気回路だね」。

ある一定の電圧(これを「しきい値」あるいは「スレッシュショルド」と呼びます)を超えたら「1(高い)」、それ以下なら「0(低い)」。正直、電気の世界はもっとズルズルで曖昧なものですが、そこに「ここからは1!ここまでは0!」と強引に境界線を設定する。この「非情なまでの割り切り」こそが、デジタルがノイズに強く、劣化しないコピーを作れる最大の理由です。

ただし、この割り切りには代償もあります。現実の豊かな音や色彩を0か1かに無理やり分けるため、厳密には微細な情報が削ぎ落とされている。でも、その犠牲のおかげで、私たちは人類史上最高の計算速度を手に入れたのです。

ここがポイント👌:コンピュータは、曖昧なアナログの世界に境界線を引くことで「0」と「1」のデジタル世界を生み出している。

直列つなぎは「掛け算」だった?驚きの論理演算への昇華

ここで、あの懐かしい小学校の理科室へ戻りましょう。1本の道に2つのスイッチ(あるいは電球)を縦に並べる「直列つなぎ」です。
この回路で電気が流れるためには、Aのスイッチも、そしてBのスイッチも、両方が「ON」でなければなりません。どちらか片方でも「OFF」であれば、電気はそこで遮断されてしまいます。

これを「1(通る)」と「0(通らない)」という数字で置き換えると、驚くべき法則が浮かび上がります。

  • 1 × 1 = 1(両方ONなら流れる)
  • 1 × 0 = 0(片方がOFFなら流れない)
  • 0 × 1 = 0
  • 0 × 0 = 0

「直列つなぎって実はかけ算なのよ。……驚きの事実じゃないあれ。なんで気づかなかったんだ」。
まさにその通りです。私たちがかつて理科室の地味な実験で触れていたのは、実は数学的な「掛け算(論理積:AND演算)」を実現する物理装置そのものだったのです。義務教育が教えていたのは、単なる電球の光らせ方ではなく、コンピュータ科学の最深部への入り口でした。

ここがポイント👌:直列つなぎは「両方の条件が揃った時だけ1になる」という、デジタル世界の掛け算(AND)を実現している。

並列つなぎは「足し算」。ブール代数の不思議なルール

一方で、道が二股に分かれた「並列つなぎ」はどうでしょうか。こちらは直列とは違い、どちらか一方のスイッチさえ「ON」であれば、電気は目的地に届きます。

  • 1 + 0 = 1(一方がONなら流れる)
  • 0 + 1 = 1
  • 1 + 1 = 1(どちらもONでも、やはり流れる)

デジタル演算の世界(ブール代数)では、「1 + 1」は「2」ではなく「1」になります。これは「少なくとも一方が1なら結果は1」というルールです。つまり、並列つなぎはデジタル世界における「足し算(論理和:OR演算)」の役割を担っているのです。

「義務教育ってやっぱ偉大なのよ。……コンピュータの根本的な動作原理、なんでこれで計算できるのみたいなことを答えようと思ったら直列つなぎと並列つなぎの話に着着する」。
理科室のあの地味な配線が、実は人類最高の宝箱を開ける鍵だった。この発見こそが、現代テクノロジーを理解するための最大級のカタルシスと言えるでしょう。

ここがポイント👌:並列つなぎは「いずれかの条件が揃えば1を出力する」という、デジタル世界の足し算(OR)を実現している。

地球の全人類より多い「門番」が、あなたのポケットで働いている

さて、スイッチの代わりに「トランジスタ」を使えば、この計算を自動化・極小化できます。トランジスタには3つの端子があり、特定の端子に電気が流れている時だけ、道を開く「門番」のような役割を果たします。

特筆すべきは、この計算結果を「次の計算のスイッチ」として連結できる「モジュール化」という考え方です。
「直列で掛け算した結果を、別の並列回路の入り口に繋ぐ。これを繰り返していくことで、複雑な数式が形作られていきます。」
1ビットの足し算を積み重ねれば桁上がりが生まれ、それを繰り返せば巨大な割り算や、平方根の計算、さらには画像処理や音声認識までもが可能になります。

あなたの手元にあるスマートフォンには、この「直列」と「並列」を組み合わせた極小の回路が、なんと数百億個も詰め込まれています。数百億個と聞いてもピンときませんが、実は指先に乗るくらいの小さなチップの中に、東京都の全人口どころか、地球上の全人類よりも遥かに多い数のトランジスタが、隙間なく敷き詰められているイメージです。

一秒間に何十億回というスピードで、小さな門番たちが「掛け算(直列)」と「足し算(並列)」を全力で繰り返す。スマホが熱くなるのは、その膨大な数の門番たちが、あなたのリクエストに応えるためにチップの中で全力疾走している証拠なのです。

ここがポイント👌:トランジスタを「モジュール」として膨大に組み合わせることで、単純なON/OFFが、高度な計算知能へと進化する。

まとめ

この記事をまとめると…

  • コンピュータはアナログな電圧を「しきい値」で区切り、無理やり「0」と「1」の世界を作り出している。
  • 「直列つなぎ」は、すべての条件が揃った時に1を出力する「掛け算(AND)」の役割を担う。
  • 「並列つなぎ」は、いずれかの条件が満たされれば1を出力する「足し算(OR)」である。
  • 3端子を持つトランジスタをスイッチとして使い、計算結果を次の回路へ繋ぐことで、あらゆる数学的処理が可能になる。
  • スマホの中には数百億個のトランジスタが詰まっており、一秒間に数億回以上の論理演算を行うことで魔法のような機能を実現している。

「いいアルゴリズムというものは、巧妙なトリック、こころよい驚きを感じることができるものである」。
正直、半導体が計算するなんて、最初は魔法か詐欺だと思いました。でも、蓋を開けてみれば使っているのは「直列」と「並列」だけ。まるで、信じられないほど巨大で緻密なレゴブロックを組み立てているようなものです。

次にスマホを触る時は、その薄い板の中で、数百億の「門番」たちが一生懸命にパズルを解いている姿を想像してみてください。世界の見え方が、少しだけ変わるかもしれません。理科室のあの日の豆電球は、今もあなたのポケットの中で、驚異的な速度で瞬き続けているのです。

配信元情報

番組名:ゆるコンピュータ科学ラジオ
タイトル:豆電球のつなぎ方が分かれば、コンピュータは作れる【半導体3】
配信日:2022-05-29

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