【パソコンがあなたの「知能」を奪っている。】ITの父ダイクストラが万年筆を握り続け、デジタルを拒絶した真の理由

AI・テクノロジー

Googleマップの経路検索からOSの基礎概念まで、現代ITのすべてを築いた天才、エドガー・ダイクストラ。しかし彼は、私たちが毎日疑いもなく使うパソコンを「思考の敵」として激しく拒絶しました。

なぜ世界一のコンピュータ科学者は、不自由な万年筆にこだわったのか?効率化の罠にはまり、本当の意味で考える力を失いつつある現代人に贈る、抽象思考の極北へ。


1. コンピュータ科学の真の父:ダイクストラが築いた「現代の土台」

コンピュータの歴史には多くの天才が登場しますが、オランダ出身のエドガー・ダイクストラこそが、学問としての「コンピュータ科学」を確立した巨星です。

OSの排他制御を実現する「セマフォ」、現代のプログラミング思想の根幹である「構造化プログラミング」、そして誰もが恩恵を受けている「最短経路アルゴリズム(ダイクストラ法)」。現代のデジタル社会は、すべてダイクストラが万年筆一本で考え抜いた功績の上に成り立っています。

しかし、彼は自分を「プログラマー」と呼ぶことを嫌いました。彼にとってプログラミングとは、コードを書く作業ではなく、数学的に最も「エレガントな解法」を導き出す知的な格闘だったのです。

2. 「ループ脳」の恐怖:ツールが人間の抽象思考を奪う?

これほどITの基礎を築いた人物でありながら、ダイクストラ本人はパソコンを使うことを嫌っていました。彼が最も信頼していた仕事道具は、モンブランの万年筆でした。

彼がパソコンを避けた最大の理由は、「具体的な道具が手元にあると、人間は深く考えなくなる」という危機感です。
たとえば、「1から20までの間に3の倍数はいくつあるか?」という問題を考えます。プログラミングに慣れすぎた人は、つい「1から順にカウントアップして、3で割り切れるかを確認するループ処理(for文)」を書いて解決しようとします。

しかし、数学的に考えれば「18÷3=6」と一瞬で答えが出ます。脳内の計算量で言えば、前者はO(n)、後者はO(1)。ダイクストラは、パソコンという道具があるせいで、人間が本来持っているはずの「エレガント(上品・優美)な解法」から心理的にブロックされてしまう状態を「ループ脳」と呼び、強く戒めました。

3. ワープロは「書いている気分」にさせる罠:仕事とアクティビティーの境界線

ダイクストラの皮肉は、文章作成ツールにも向けられました。彼はワープロを「仕事とアクティビティー(単なる活動)を混同する人にとって理想的なツール」と切り捨てています。

考えが煮詰まっていないのに、とりあえず画面に向かって文字を打ち込み、コピペや修正を繰り返す。これはダイクストラに言わせれば、単に「忙しく動いているだけ」であり、思考ではありません。
「まず頭の中で答えを出せ。そうすれば書き直す必要はない」

彼は下書きや推敲すらも否定しました。書き直しができない万年筆を使っていたのは、「脳内で完璧に抽象化された結論」を出してから紙に落とすという、彼のストイックな思考プロセスの表れでもありました。正直、現代のアジャイル開発において「一度も書き直さない」のは非現実的かもしれません。しかし、「ツールの制約に思考を委ねるな」という彼の警告は、今こそ重みを増しています。

4. 「テスト」では届かない場所:バグの不在を証明する数学的理性

ソフトウェアの品質管理についても、ダイクストラは極めて抽象度の高い視点を持っていました。
「テストでバグの存在を示せても、不在は示せないだろう」

これはエンジニアにとっての劇薬です。どんなにテストを繰り返しても、全てのケースを網羅することは不可能です。そこで彼は、具体的なバグを「潰す」のではなく、数学の定理を証明するようにプログラムの正しさを論理的に導き出す「形式手法」を提唱しました。

具体的な実装という泥沼から離れ、論理的に「バグが発生し得ない構造」を定義する。この究極の抽象化アプローチこそが、複雑怪奇になった現代のシステムを救う唯一の知恵なのかもしれません。


まとめ

この記事をまとめると…

  • ダイクストラは、現代のOSやアルゴリズムの土台を作った「真のコンピュータ科学者」である。
  • 彼はパソコンが人間に「具体的実装」を強いて、数学的に洗練された「エレガントな思考」を奪う「ループ脳」を危惧した。
  • ツールを使って修正を繰り返すのは単なる「アクティビティー」であり、真の思考は脳内で完結させるべきだと説いた。
  • 「バグの不在」はテストでは証明できない。論理的にミスを排除する「究極の抽象化」こそがプログラミングの本質である。
  • 現代のプログラマーは、キーボードを叩く前に「頭の中で問題を解く」ダイクストラの姿勢に立ち返る必要がある。

刺さるフレーズ

  • 「コンピュータサイエンティストの名前一人だけあげろって言われたら絶対ダイクストラあげてほしいんですよ」
  • 「プログラマーの本懐って、エレガントな問題解決手法を見つけることなんですよ」
  • 「仕事とアクティビティーを混同する人にとって理想的なツール」
  • 「テストでバグの存在を示せても、不在は示せないだろう」

配信元情報

番組名:ゆるコンピュータ学ラジオ
タイトル:世界一のコンピュータ科学者は、コンピュータが嫌いだった。#184
配信日:2025-07-13

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