98%の失敗を愛するGoogle、1つの陥没で揺らぐ日本。「ムーンショット」の狂気と、インフラ維持の「冷徹なメリハリ」

AI・テクノロジー

98%の失敗を許容するGoogleの秘密組織。一方で、一ミリの陥没も許されない私たちの足元の道路。今、テクノロジーと社会インフラの両輪で「選択と集中」のあり方が劇的に変わろうとしています。

未来を創る壮大な「ムーンショット」から、私たちの生活を足元で支える地道な「インフラ管理」まで、今週のニュースは私たちに一つの残酷な問いを突きつけています。それは「限られたリソースをどこに集中させ、何を切り捨てるのか」という決断です。経営再建をかけたインテルの3兆円規模の博打から、埼玉の陥没事故が突きつけた日本のインフラ維持の限界まで。未来への壮大な挑戦と、現実を維持するための苦渋の決断。その最前線で起きている「変革の正体」を読み解きます。

今回の配信内容🎧

  • Googleの持ち株会社アルファベットにある秘密組織「X」のアストロ・テラーCEOが語る、失敗を肯定する「Tech For Good」の哲学。
  • 経営不振のインテルがアリゾナで挑む、2ナノ級半導体「18A」の量産現場。3兆円投資に込められた「不退転の決意」。
  • 埼玉県内での道路陥没事故を受け、国土交通省が打ち出した「メリハリ」と「軽量化」を軸とした第3次提言案の内容。
  • 失敗を許容できない日本社会が、インフラ管理における「戦略的軽量化」という冷徹な現実をどう受け入れるべきか。

1. 98%の失敗を愛する。Google Xが挑む「ムーンショット」の狂気と善意

Googleの持ち株会社アルファベットには、「ムーンショットファクトリー」の異名を持つ秘密組織「X」が存在します。月面着陸を目指したアポロ計画のように、極めて困難だが社会に甚大なインパクトをもたらす挑戦を、工場のように次々と生み出すことが彼らの役割です。

この組織を15年以上率いるアストロ・テラーCEOの言葉には、既存のビジネス常識を根底から揺さぶる響きがあります。「98%は失敗。それでいい」と彼は言い切ります。困難な課題を解決するためには、膨大な試行錯誤が不可欠であり、そこでの失敗は無駄ではなく、むしろ成功への唯一の道標であるという確固たる信念があります。

98%の失敗を許容するなんて、普通の会社なら即倒産ですよね。でも、残りの2%が世界を変えるインフラになる。この「健全な狂気」こそが、かつてのシリコンバレーの強さであり、私たちが「未来」と呼ぶものの正体です。彼らが実践するのは「Tech For Good(善のための技術)」。例えば、完全自動運転を実現した「ウェーモ(Waymo)」も、人為的ミスによる交通事故削減という巨大な社会課題への挑戦から生まれたプロジェクトの一つでした。

単に「便利なツール」を作るのではなく、人類が抱える解けないパズルを解きに行く。そのためのコストとしての失敗を、私たちはどこまで許容できるでしょうか。この問いは、次のインテルの挑戦にも共通するものです。

2. インテル3兆円の「不退転」。アリゾナの砂漠で始まった半導体大国の復権

経営不振が続き、崖っぷちと囁かれる米インテル。彼らは今、アリゾナ州の自社工場「ファブ52」で、次世代の2ナノメートル世代級技術「インテル18A」による半導体生産を開始しました。

200億ドル(約3兆円)という投資額は、インテルの年間売上高の約3割以上に匹敵します。まさに会社を丸ごと賭けた「不退転の決意」が、この巨大な工場には込められているのです。アリゾナの乾いた砂漠の中で、インテルは「米国に先端半導体は戻るか?」という地政学的な巨大な問いに答えを出そうとしています。

インテルにとって「18A」は、TSMCやサムスン電子といった競合に追いつき、追い越すための生命線です。工場見学ツアーで示されたのは、量産に向けた「歩留まり」の着実な改善。インテル側は、欠陥の低減など量産に向けた歩留まりは健全な方向に向かっていると自信をのぞかせます。

実際、米国に先端半導体は戻るのか? その成否は、単なる企業の勝ち負けを超えて、世界の地政学的なパワーバランスをも左右します。アリゾナの砂漠で始まったのは、そんな巨大な歴史の分岐点なのかもしれません。未来を創るためには、これほどまでの巨額のリソースとリスクを取る必要がある。一方で、私たちの「足元」では、全く異なる「選択と集中」が始まっています。

3. 「全ての維持」はもう幻想だ。埼玉陥没事故が導いたインフラ管理の『冷徹なメリハリ』

未来を創る博打が行われる一方で、私たちの足元では現実が悲鳴を上げています。埼玉県内で発生した道路陥没事故を受け、国土交通省の有識者委員会がまとめた「第3次提言案」は、これまでの日本のインフラ管理の常識を覆す、冷徹なまでの新指針を示しました。

これまでは、全てのインフラを一律に対策することが当然とされてきました。しかし、深刻な老朽化と限られた予算、そして人手不足という三重苦の中で、提言案は「一律の対策」からの脱却を求めています。その核心は、優先順位に基づいた「メリハリ」のある管理です。

提言案では、下水道などの管路点検において、重点的に調査・再構築を行う箇所と、対策を簡略化——つまり「軽量化」する箇所を明確に分けるよう求めました。正直なところ、「軽量化」と聞くと不安になる方もいるでしょう。重要度の低い路線のメンテナンス頻度を下げる、あるいは事実上の「延命中止」を選択せざるを得ない場面が出てくることを意味するからです。

だからこそ、国交省は「市民への見える化」をセットにしています。老朽化を「自分ごと」として捉えてもらうため、点検結果の公表を積極的に進めるというのです。単なる予算削減ではなく、私たちの地域の「延命治療」をどう選択するかという、納得感のある合意形成が今後のインフラ維持の絶対条件になります。

これは行政だけの話ではありません。私たちの住む街の安全をどう守り、どこを諦めるのか。市民一人ひとりに突きつけられた、残酷なまでの「選択」なのです。

4. 考察:失敗を許せない社会が直面する「戦略的軽量化」の壁

ここで、Google Xの哲学と日本のインフラ管理を並べて考えてみましょう。Googleは98%の失敗を許容し、その中から2%の成功を掴み取ります。対して日本のインフラは、1%の失敗(=陥没)も許されない「減点方式」の世界で運用されてきました。

しかし、今回の「軽量化」という提言は、この減点方式の限界を国が認めたことを意味します。「全てを完璧に維持することは不可能である」という敗北宣言に近い現実。では、失敗を極端に嫌う日本社会が、この「戦略的軽量化(=優先順位による一部の縮小)」をどう受け入れるべきでしょうか。

これからのインフラ管理には、現場の作業者が安全に働きがいを持てるよう、メンテナンス業界の待遇改善や表彰制度の新設も盛り込まれました。5年後を目途に点検・診断の新技術を現場に実装する方針ですが、技術以上に必要なのは「完璧主義からの脱却」という社会心理の転換かもしれません。

未来のインフラを創る「健全な狂気」と、足元のインフラを守るための「冷徹な決断」。このギャップに、今の時代の難しさが詰まっています。


まとめ

この記事をまとめると…

  • Google Xは、98%の失敗を許容する「ムーンショット」精神で、社会を劇的に変える「善のための技術」を追求している。
  • インテルはアリゾナの新工場で2ナノ級「18A」の量産を開始。3兆円規模の不退転の投資で、米国への先端半導体製造の回帰を狙っている。
  • 日本のインフラ管理は、埼玉の陥没事故を教訓に、一律の維持から優先順位に応じた「メリハリ」と「軽量化」へ舵を切ろうとしている。
  • 深刻な老朽化に対し、「全ての維持」はもう幻想。点検結果の「見える化」を通じて、市民がリスクとコストを共有する新しい合意形成の時代が始まっている。

「未来への壮大な投資」と「足元の現実的な管理」。どちらも私たちがより良い社会を維持していくために欠かせない、テクノロジーとマネジメントの両輪です。私たちは何を捨て、何に賭けるのか。その答えが、私たちの10年後を決めることになります。

配信元情報

番組名:テクノロジーFlash
タイトル:11_17週 Googleの秘密組織トップが語るTech For Good/インテルの「18A」工場に潜入/埼玉陥没事故の第3次提言案はメリハリで「軽量化」
配信日:2025-11-17

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